一般的に利用される遺言は、自筆で書く自筆証書遺言と、公証人役場で作成する公正証書遺言の2つです。
この2つのタイプの遺言を比べると、公正証書遺言の方が、安心度では勝ります。しかし、自筆証書遺言も、民法の定める方式に則って作成すれば、法的には有効です。まずは「遺言のようなもの」を書いてみることが最初のステップとしてよいことと思っています。
そこで、以下に、法的に有効な、自筆証書遺言作成のポイントを解説します。
遺言書
山田太郎は、妻山田花子にすべての財産を相続させる。
令和4年10月17日
山田太郎
民法では、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」(968条1項)されているので、「題名」は絶対要件ではありませんが、「遺言書」(「遺言」や「遺言状」でも可)と記載があれば、相続人も一目で、この文書が「遺言書」であることが明確になります。
原則として、すべて自筆で書きます。多少手が震えても、自分で筆記用具をもって記載してください。筆跡から本人であることが明確になるからです。一部でも、代筆は認めれません。ワープロ、録音、ビデオなども遺言とはなりません。
ただし、平成31年の民法改正で、財産目録を別紙にして遺言に添付する場合は、その目録のページごとに署名し、印を押せば、目録自体はパソコン作成やコピーでもいいことになりました(民法968条3項)。
西暦でも和暦でもいいですが、○○年○○月○○日と、日まで書くことが必要です。「吉日」とか「月だけ」では、民法の要件を満たしませんので無効です。ご注意ください。
氏名は、誰が遺言を書いたか特定する目的です。住所・生年月日は記載しなくてもよいですが、書けばより特定しやすくなります。
屋号や通り名ではなく、本名を書きましょう。戸籍と同じ漢字表記でなくても大丈夫ですが、なるべくなら戸籍どおりが望ましいです。
法律的には、印であればいいので、判例では拇印でも可とされています。ただし、実印が一番信頼度が高いです。実印がなければ銀行印を使用して下さい。
サインや花押では有効になりません。
二人以上の人が、一枚の紙に共同で遺言を書くのは無効です。遺言は、自分の財産を自分の意思で処分する性質のもので、本人の意思でいつでも書き替えが許されています。共同遺言ですと、この性質が十分に発揮できないためす。
民法では、自筆遺言書の訂正については「自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。(968条3項)」となっています。
民法の指定通りに訂正してあれば法的には有効ですが、訂正の方法が間違っていると、せっかくの遺言も無効になってしまいます。書き損じを修正する場合は、専門家に見てもらうか、初めから書き直すのがお勧めです。
法的に有効な要件は以上です。
なお、不動産を特定する場合は登記簿通り書く、消えないようにボールペンや万年筆で書く、改ざん防止に封筒入れるなど、常識的な留意点はありますが、これらは民法が要求する、遺言の法的要件ではありませんから、そうしなかったからと言って無効とはなりません。